2022-01-01から1年間の記事一覧

語らう

月がきれいだった。川の向こう側は高層マンションが立ち並ぶ。窓から漏れる灯りと、その真上から照らす月の明かりを一枚の写真に収めた。せわしない時間の流れから、少し解放される。冷たい風にあたりながら、土手を散歩した。 12月の終わりは、やっぱり好き…

道のり

よく使うカードでさえ、財布の中で迷子になる。レジに並ぶ前に、店内で立ち止まってカード探しをする。ここもまた書類と同様、整理する必要があった。ここの薬局のカードはいつもポイントを貯めるばかりで、ポイントを使うことをつい忘れてしまう。今日こそ…

執着

西に位置する太陽は、水面に映る太陽との距離を縮め、こちらを眩く照らす。向かい風を受けながら、握るハンドルの手は冷たく、この時間になるまで、家を出なかったことを後悔する。それでも目的地に着けば、自転車のかごに載せられた荷物の分だけ、心が軽く…

扉の向こうへ

君の背中を見送るのは あと何回だろう青いランドセルで隠れた背中は とても小さかったね 君は白いキャンバスに これから何を描くのだろうランドセルの色を選んだときのように 好きな色を選んでね 色褪せたキャンバスをじっと眺めるママは何を描いていたかな …

寛ぎ

目的地に着く前から、「コーヒー牛乳」と決めていた。 娘に誘われ、家を出た時刻は、もう夜の9時を回っていた。片道ニ十分ほどの距離を歩く。昔からあるこの場所に、初めて訪れた。娘もまた、先月初めて訪れたのだが、ここを気に入ったようだ。中へ入ると結…

いにしへの

過去に戻りたいわけではない。少し覗いてみたくなっただけだ。 駅の周りには、わずかな数の店舗しかない。どこも違う店になっている。いくつかの店は、恐らく閉店しているであろうことが伺える。ぐるりと見渡していると、思わず「えっ!」と声が出た。かれこ…

無音

同じ屋根の下に居て、気配が全く感じられないのも、確かに不安を覚える。しかしガラス戸を閉めても、隣のダイニングからテレビの声が一言一句、私の耳に届くほど、防音効果のない部屋もどうかと思う。どうしても、声に意識がいく。音楽が流れていても同じで…

師走

ぐっと気温が下がった。肩をすくめながら、外へ出る。ごみ収集車を待つ、マンション前に積まれた袋は、いつもより多い。鍵のかかったごみ置き場には、誰かの家で使われていた家電が、粗大ごみの日まで待機する。皆が、年末に向けて片付けているように思えた。…

仕組み

たった三桁の数字が、さっきから覚えられず、何度も確かめている。ピンポンという音と共に、二つの数字がモニターに映し出される。手元の紙に書かれた数字と一致すれば、私の番だった。ここの病院では、名前は呼ばれない。私の受付番号と受診する科の部屋番…

曇りのち

湿気を含んだ、生ぬるい風が部屋を通り抜ける。雲の隙間から、時々太陽が顔を覗かせる空は、今晩雨を降らせるようだ。まだ乾ききっていない昨日の洗濯物が、鴨居いっぱいに掛かっている。今日の天気も、乾きは良くなさそうだと判断して、洗濯はやめておいた…

今年の目標

「正」の字を二回書けば、一日のノルマは達成だ。最後の一画を書き終えると、もう0時を回っていた。 計量カップで量った200mlの水は、マグカップに移し替えると、思った以上に注がれる。それを目安に、毎回並々とマグカップにお茶か白湯を注ぐ。一杯飲み干…

月に願って ゆめ叶う

「マチダ」という場所へ向かっていた。途中の乗換駅は、帰省の時に利用する駅と同じで、方向音痴の私でも不安はなかった。しかし、自宅の最寄駅から電車に乗ると、すぐに緊張しはじめた。目的地が近づくにつれ、さらに緊張が増していることを自覚した。 今日…

青いノート

今月はすでに予定がいくつかあったが、一つ済ませると、また一つ増え、新しい青いノートは、どんどん予定で埋められていった。それと反比例するように、「片付け」の時間がどんどんなくなっていく。最後まで使い切った青いノートの方には、まだ赤線が入って…

学び

洗濯を何回も回していたら、もうお昼になろうとしていた。とりあえず、頼まれた用事を先に済ませるべく、家を出る。目的地に着くと、お客は私一人だった。扉が開く前に、次のお客さんが来たのに気付く。全面ガラスの扉の向こうに人が立てば、狭い店内に居る…

聖なる夜は

耳に入ってくる音は知らない曲だが、すぐにクリスマスソングだと分かる。予約受付中のケーキの見本はアニメのキャラクターが飾られ、昔買ったことがあったな、と懐かしむ。買い物リストを片手にスーパーへ来たのだが、目的のものを探すのに時間が掛かってし…

見上げた空には

昼間、外出した私の携帯電話は、マナーモードのままだった。夫からのラインがしばらく未読だったのは、それが原因で、もちろんその後の電話も気付かぬままだ。ふと携帯電話を手にして、ようやく夫からのラインに気付く。これから帰るということを知らせるス…

約束

ここに立つ度、赤い文字が目に入る。キッチンと、向かい合わせに配置した食器棚との間は、一人立つのがやっとだ。腰ほどの高さの小さな食器棚の上は、ちょっとものを置くのに都合がいい。赤い文字で書かれたメモはここにある。 *** 土手の向こうから、彼…

告白

どこを探しても見つからなかった。押入以外に収納する場所がないのだから、やはりここしか考えられない。いつもなら息子の部屋の押入にある。かすかな記憶だが、いつもと違う場所、和室の押入に入れたような気もする。二つの押入を行ったり来たりする。 常に…

外からも 内からも

さっき入れたばかりの紅茶は、飲み切らないうちに、もう冷めてしまっていた。残りを飲み干すと、体がきゅっとする。まだ午前中だというのに、夕食は体が温まる鍋にしようと決めた。キーボードを打つ指が止まってしまう。再度、温かい飲みものを手に入れるに…

待てど暮らせど

ソファーに腰かけてから、結構時間が経っている。テレビ画面に映し出される片付け動画は、もういくつ観ただろうか。そろそろ始めようかとソファーから腰を上げる。部屋を行ったり来たりして、またソファーに戻ってくるをさっきから繰り返していた。頭では分…

壁には、たくさんの鏡が等間隔で並べられていた。全身が映るほどの大きさはなく、胸から上が映るぐらいだった。若者の街で歩き疲れた私は、娘に案内された場所で、ジュースを買って席についた。並んだ鏡を眺めながら、なんだろうと考えていた。鏡の前に立つ…

逆算

すでに一ヶ月が経過していた。三ヶ月で片付けると宣言した日から、つまり期限まで残り二ヶ月になっていた。この一ヶ月の成果は、ほとんどなかった。 年末を迎える少し前に期限を設定したのは、年末はゆっくり過ごしたいからだった。片付けを終わらせたくて仕…

試練

居たら居たで気になるし、居なくなったらそれはそれで、気になった。洗濯を干す私と目があった。その日から、彼は三日間も滞在していた。 普段、庭にいるであろう彼は、時々、ベランダの方へやってきて、私の目に留まるところに現れる。申し訳ないけれど、苦…

進歩

朝から落ち着かない。指定された時刻より早く来ることは拒まれている。それでも、気持ち早めの電車の時間を調べる。結果それには乗り遅れ、案の定余裕がなく、指定された時刻ぴったりに到着した。 初めての場所で要領が分からずにいたが、親切に次から次へと…

決まり

隣のマンションから出てきた男の子は、知らない子だ。けれど、彼を二度見した。子供達が通っていた中学の鞄を持っている。胸元の校章の形も間違いなかった。しかし彼が着用しているポロシャツは、見たことがない。制服が変わったようだ。 秋の心地よさが一転…

願い

時々訪れるこの場所は、最近どこかしら工事をしている。先日訪れたときは正面の入口が塞がれていたため、脇から敷地へ入った。サンダルの中に入ってくる砂利が、素足に刺さる。砂利道を進んだ先で、手を合わせ「お願い」をした。 今日もまたサンダルで来た。…

救世主

随分前に予約をしておいたが、日程を変えざるを得なかった。読みが外れてしまったからだ。変更できる日が限られていたが、希望の週に予約を取り直すことができた。 帰省後は疲れをとることを優先し、いや口実にゆっくりしていた。実際、昼間に何度も睡魔が襲…

帰省

自分がとてもちっぽけに感じる。小さな窓から見下ろす景色は、人も車も形を捉えられない。広がる土地に街があることだけが確認できる。しばらくすると、辺り一面真っ白になった。下から見上げる雲とはまるで違う。ハイジのように本当に雲の上に乗れるような…

必需品

若干パニックだった。今乗った電車を慌てて降りる。すぐに駅のホームから電話を掛けるが一向にでない。隣には娘がいる。 「ママ、ここにかけたら?」 電話番号を変え、相手が出るのを待つ。 「○○店の××でございます」 繋がった。ひととおりの会話をし、今す…

右往左往

だいたい、いつもそうだった。刻々と日が迫っているというのに、何一つ終わっていなかった。 なぜ予約時にそうしておかなかったのだろう。当初から遅い時間に到着する予定だったのに、すでに伝えてあるホテルのチェックインの時間は早すぎた。変更の連絡をし…