壁には、たくさんの鏡が等間隔で並べられていた。全身が映るほどの大きさはなく、胸から上が映るぐらいだった。
若者の街で歩き疲れた私は、娘に案内された場所で、ジュースを買って席についた。並んだ鏡を眺めながら、なんだろうと考えていた。鏡の前に立つ姿を隠すように、カーテンが引けるようになっている。その脇にはヘアアイロンが置いてある。なるほど、ここで髪を直したり、アレンジしたりするのだなと理解したが、どうにも違和感を覚えた。フードコートでこんな光景をみるのは初めてだった。周りをみると、娘よりもまだ若い人達ばかりだ。もちろん私のような年齢の人はいなかった。

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家事もそこそこに、準備を始める。余裕があったはずの時間はいつものことながら、みるみるなくなっていく。待ち合わせの時間が迫っていた。いつも着ているトレーナーとジーパンの他に、何か着るものはないだろうかとパンパンの引き出しから目につくものを引っ張り出す。だからといって、センスのよいものが出てきたりはしない。今日の気候にちょうどよいものを探すのに苦労する。三つ目のアイテムを組み合わせると途端にちぐはぐになる。いつもは使わない姿見で全身を映し、友達とのランチに向かう。話は終始尽きなかったが、私は友達の服装をちゃんと覚えていない。

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確かに洋服に興味がとてもあるかといえば、そうではないが、昔と比較してより適当になっていっているのは分かる。けれどもやはり、おしゃれに年を重ねている人は素敵だし、そうなれたらいい。
普段ほとんど鏡をみていないことに気付く。洗面所を使うときには、必然的に鏡に顔が映るが、まじまじとみていない。若者の街では、フードコートでみた鏡コーナーより、もっと充実しているところがあるという。座ってメイク直しをしたり、着替えができたりと。あの子達は、常に自分の姿を鏡に映しだしているのだ。きっと、友達が身に着けているものだって、よくみているのかもしれない。
私は自分の姿をじっくりとみていないのと同様に、部屋の散らかり具合もじっくりとみていない。テレビ台の下に入れた引き出し収納が、知らないうちに少し奥に入り込んでいたが、その風景に慣れてしまっている。


鏡に映る私も、背景に映る部屋の様子も、今とは違う未来を考える。