2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

散りゆく

風に舞う花びらに、つい見入ってしまう。今度仲間と集まる日には、大半が散ってしまいそうで、もう少しだけ枝に留まっていてくれたらと願う。 ダイニングにある棚を一つ減らし、キッチンを手狭にさせていた、小さな食器棚を移動した。棚とその中身は一旦、空…

静と動

今朝干した洗濯物は概ね乾いているが、少し湿り気があるようで、やはり気になった。結局、ほとんどが畳まれず、ハンガーラックに掛けられた。 どうにも片付けられないのに、洗濯物だけは懸命にする。ただ天気に左右されるのが厄介だ。天気予報を確認したとき…

兎にも角にも

三人席のうち、真ん中の席に腰を下ろした。窓側には、娘がいる。西へ向かった新幹線は途中で母を乗せ、さらに西へと向かった。 島にある唯一の宿に着いたのは、もう夕方だった。 長旅で疲れた体を少し休ませ、窓越しに見える彼らの元へ足を運ぶ。彼らは食欲…

新たな始まり

せっかくだからと、少し大きいようにも思ったが、桜色のクリームのホールケーキを選んだ。プレートに入れる名を少し迷ってしまい、結局「ゆめこさん」にしたけれど、店員さんには本人だと思われたに違いない。 五十歳の誕生日を迎えた。 変わらぬことと、変…

やる気スイッチ

取り込んだ洗濯物は各自の部屋に片付けられ、水切りカゴの食器は棚に収められ、出しっぱなしの物はどこかに隠された。 部屋の隅には、パンパンに荷物が詰められたリュックと、明日の着替えが丁寧に畳まれている。 旅の準備を終える頃には、苛立ちの峠も越え…

疲労のあとには

何回見てもあいにくの雨予報だったが、その日が近づくにつれ、予報も少しずつ変わってきた。午後には雨は止みそうだ。変わっていくさまは、天気予報だけではなかった。やることに追われている私は、段々と苛立つ。こういう時に限って、いつものルーティンが…

春うらら

事あるごとに、訪れるこの場所は、最近よく来ている。今日はトレーナー一枚でも十分な暖かさで、ここまで歩けば少し汗ばむほどだ。遠くからでも存在感のある、葉も花も付けていない大木が、鳥居の横で迎えてくれる。もうまもなく小さな花を一輪咲かせ、瞬く…

卒業

カレンダーを見るたび、赤いマジックで書いた星印が目に入る。改めて見ずとも、今日がその日だということは頭に入っている。それでも、もう一度カレンダーを確認する。 朝から待ち続けたラインの通知音が、お昼近くになってようやく鳴った。 昨年の秋に予約…

月の明かり

強風のなか、目を真っ赤にした私は、とにかく早く家に帰りたかった。家に着くや否や、目を洗う。そして、うがいをする。鼻をかむ。 今年の花粉の飛散量は、例年に比べ多いという。 薬を服用して、症状が落ち着いたところで、私は一冊の本を手に取った。 月子…