2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

エプロンからみえること

ほつれた糸を目にするたび、気にはなっていた。ひととおり家事を終えたところで、お腹の前のちょうちょ結びをほどく。糸のほつれのせいで、元の幅より細くなった紐は絡み合い、ほどくのを手間取らせていた。色褪せたエプロンがようやく体から離れたとき、左…

わすれもの

この部屋にエアコンはなかった。電気ストーブを持ち込んだ記憶もない。寒さも忘れ、私は長時間部屋にこもって作業を進めていた。収納棚の上段はガラス戸の扉が付いていて、下段は引き出しになっていた。真ん中の空間の背板にはコンセントを通す穴があり、茶…

テンキによる心の持ちよう

脱衣かごの中を空っぽにしたことを後悔した。何も急ぐことはなかったのだ。雨が続いた日の翌日、晴れると予報された天気は曇りのまま一日を終えた。鴨居にかけた洗濯物は10枚ほどで、残りの洗濯物は、その多さにどうしようもなく放置した。梅雨入りしてから…

日課

いつもの癖で左手で掴んだものに重みを感じて違うと気付いた。鏡に映る私も「そうだよね」という顔をしている。そのまま手を下ろし、封を開けたばかりの歯磨き粉を元に戻す。代わりに引き出しの中から携帯用の小さな歯磨き粉を取り出した。夫の出張、家族旅…

朝と夜のあいだ

そもそも食べ過ぎなのだ。自分に問うべきである。 時刻は11時になっていた。観音開きの冷蔵庫の右側の扉を先に開ける。真ん中に置いたタッパーの中身をみるには、結局は左側の扉も開けることになる。昨日の残り物を確かめた。昼食の準備を始めるのはもう少し…

立ち位置

キーワードは合っているはずだった。上位に出てくる検索結果は探しているものとは違う。画像検索に切り替え、青い文字の表紙の本を探すが見つからない。目当ての本の表紙はオレンジ色の文字に変わり、新装版と書かれていた。そのうえ「片付け」「時間がない…

季節外れの侵入者

なんとも仰々しい。窓際に置かれたスプレー缶の噴射口は、今までみたこともない形状だった。威力の大きさを自慢しているようだ。ここが定位置である理由は、奴のせいだった。 主とその家族が家を留守にしている間、奴はじっと息を潜めていた。気配はまるでな…

なんとなく

不規則に並ぶアルファベッドのキーの上に指を添えたまま、考えごとをしていた。無論片付けのことに他ならない。パソコン画面は変わらぬまま、私とにらめっこをしていた。 ここに座ると左手の本棚がいやおうなく目に入る。棚の隙間には書類が置かれ、収まりき…