わすれもの

この部屋にエアコンはなかった。電気ストーブを持ち込んだ記憶もない。寒さも忘れ、私は長時間部屋にこもって作業を進めていた。
収納棚の上段はガラス戸の扉が付いていて、下段は引き出しになっていた。真ん中の空間の背板にはコンセントを通す穴があり、茶色の棚板の上に電化製品が設置できるような仕様になっていた。子供部屋に置くには用途が異なっていたのかもしれないが、この白い収納棚は使い勝手が良かった。
ピンクのカーペットに散乱している文房具やら雑誌やらは、白い収納棚に収められる量だった。拾っては棚に収めるを繰り返し、夜を迎えた。
明日は父方、明後日は母方の祖父母宅に行くのがお決まりだった。よそ行きの服を今日のうちに準備する。お風呂もいつもより長めに入った。

子どもの頃のある年の大晦日、新年を気持ちよく迎えるために自室を片付けていた。実家にいた頃も「片付けられない」ことは自覚していたが、深刻に悩んではいなかった。部屋の状態を叱られたこともなかったのだ。

        ***

昼下がり、うたた寝をしていた。

<目が覚めると、誰もいなかった。
風がまっすぐ抜けるこの家は、南側の和室から、隣のキッチンはもちろん、北側の洋室まで見渡せた。
「あれ、お母さんどこに行ったんだろう?」
心のなかでつぶやくも、すぐに違うのだと脳内で訂正される。
「お母さん、、、お母さんは私だ」>

現実の世界で目を覚ます。2Kの間取り、この家をよく知っている。結婚して最初に住んだ家だった。今住んでいる家に越してきたころ、私は小学生の息子、幼稚園児の娘の母だった。恐らくこの時期あたりだったと記憶する。しばらくの間、この夢をみた。

大人になりきれていない私がいた。