2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

小さな石

いつものスニーカーを履いて玄関を出ると、すぐに靴の中の違和感に気付いた。あ~、そうだったと、思い出した。昨日から靴の中に、小石が入っている。 しばらく歩き、信号待ちをしている間に、靴を脱いで逆さまにする。小さな石が地面に落ちた。しかし、横断…

帰るところ

朝から雲一面の空は、夕方には地面を濡らす。 傘を新調してから、それまで使っていた傘は、目につかない傘立てに置き去りにされていた。「懐かしい」と言いながら、その傘を差す娘と、スーパーへ買い物に行く。 忘れ物を取りに、度々娘が帰って来る。そのせ…

マイルーム

まっすぐ、まっすぐ、ただまっすぐ縫う。 結局、必要に迫られた時にしかミシンの出番がない。それでもミシンを動かしていると、次は自分のために何か作ってみたくなる。 一日中ミシンを動かしていたい。 ニメートル近い布は、食卓の上に収まらず、フローリン…

繰り返し

「暇だから、大丈夫ですよ」 レジの後ろに並ぶ人は、いない。だからといって、ポイントカードを探すのに、こんなに時間を掛ける人がいるだろうか。いつもなら、レジに並ぶ前に必要なカードは確認する。稀に、今日のように会計時にカードを探すこともあるが、…

いと 情け深し

涙が今にも頬を伝いそうだった。 彼女も私も、互いに今日は暖かいものを着込んできたと、報告しあう。それでも、風の冷たさを感じながら、決まったコースを歩く。彼女と別れるいつもの角で、足を止めておしゃべりが続く。 「背中をさすらせて」 帰り際、彼女…

ホームワーク

空から静かに舞う雪は、庭の枯れた草木を少しずつ白くした。 テレビから聞こえる声は、早めの帰宅が望ましいと言っている。その声が届かぬ娘は、携帯で天気予報をまめに見る習慣も恐らくない。 娘にラインを送った。直接声を掛けることができず、文字にする…

あの日

二年の月日が流れた。 2019年 春 ピンクの花びらが散ってしまわぬうちに、皆で集まる。公園に広げられたレジャーシートの上に、持ち寄ったものを並べる。大概おしゃべりに夢中で、じっくりと桜を観賞する者などいない。 「お店をする!」 唐突に彼女が言った…

春は あけぼの

外は庭に向かって、内はテーブルの上へ、「鬼は~そと、福は~うち」と声は小さいものの、お決まりのリズムに乗せて、豆を蒔く。わざわざ棚の奥から、頂き物の升を出して、それっぽさを演出する。 庭に蒔かれた豆は、恐らく鳩の餌になっている。テーブルに蒔…