あの日

二年の月日が流れた。

       

 

2019年 春

ピンクの花びらが散ってしまわぬうちに、皆で集まる。
公園に広げられたレジャーシートの上に、持ち寄ったものを並べる。
大概おしゃべりに夢中で、じっくりと桜を観賞する者などいない。

 

「お店をする!」

唐突に彼女が言った。

「えっ?」

私達は驚く。

 

ずっと秘めていた思いを告白したというより、感性が豊かな彼女の、その場の思いつき、といってもおかしくはなかった。
そうだとしても、お店に立っている彼女を想像したら、なんの違和感もなく、しっくりくる。

彼女の語る言葉は、だったらいいな、ではない。本気である。彼女は、これからの自分の人生のことを考えているんだ、そう思った。

私は、どうだろう?
彼女と同じく、パート勤めをしていた。
いつかは辞めるつもりでいる。ただ「いつか」は漠然としていた。

五十、六十の年齢までは、今勤めているパート先に居ないだろうとは想像していた。
しかし自分の年齢が、四十の後半で、五十歳も近いことに、気付いていなかった。

「いつか」を決めることにした。

漠然としていた「いつか」は具体性を持ち始めたが、それでも「いつか」は、まだまだ先の日を設定していた。

三年先、四年先、どこかで区切れば、キリが良かった。
勤続年数、自身の年齢、子供の成長の節目と、いろいろと辞める理由に添えられる。
しかし、何かを待つ必要はなかった。

 

2021年 1月

春が来る前に、私はパートを辞めた。