春は あけぼの

外は庭に向かって、内はテーブルの上へ、「鬼は~そと、福は~うち」と声は小さいものの、お決まりのリズムに乗せて、豆を蒔く。
わざわざ棚の奥から、頂き物の升を出して、それっぽさを演出する。

庭に蒔かれた豆は、恐らく鳩の餌になっている。
テーブルに蒔かれた豆は、年の数だけ集めて、いやこの頃は、適当な数だけ食べる。

至ってシンプルな具を、食卓に並べる。
あとは海苔で巻くだけなので、息子に託す。
食卓に置かれた息子の携帯電話は、方位磁石が表示されている。

豆まきをする前に、巻き寿司を食す。
一本食べ終わるまでは、もちろん声を発しない。

無病息災、これを願うばかりである。

 

 

暦の上で、春を迎える。
かさかさした手は、まだまだ冬の寒さを感じている。