いつものスニーカーを履いて玄関を出ると、すぐに靴の中の違和感に気付いた。
あ~、そうだったと、思い出した。昨日から靴の中に、小石が入っている。
しばらく歩き、信号待ちをしている間に、靴を脱いで逆さまにする。小さな石が地面に落ちた。しかし、横断歩道を渡る私の足取りは軽くならず、まだ靴の中で、小石を踏んでいた。
まるで、私の体と一緒ではないか。
***
「深呼吸をしてください」、の次に聞こえた言葉は、「終わりましたよ」だった。
知らぬ間に手術が終わったようだ。
私は病室に戻らず、今朝説明を受けたとおり、HCU(高度治療室)と呼ばれるところに運ばれた。
手術前から、左腕には点滴の針が刺さっていたが、術後も外れることはなく、新たに右手の指に、オキシメーターが付けられた。ベッドから降りることもできず、このままここで一泊を過ごす。
手術前に案内された病室は、私の荷物だけを残して、ベッドはもぬけの殻だった。
二泊三日のうち、一泊目はここにいるというのに、二泊分の病室代がかかるのだろうなと、考えていた。というのも、希望していた、病室代がかからない部屋が満床だったからだ。
翌日は、身動きが自由になった。レントゲン撮影が終われば、今日の予定は特に何もないという。とはいえ、病室で過ごす選択肢以外はない。
本を読んだり、携帯で動画を観たりしたのち、疲れた私は老眼鏡を外し、目を閉じた。
小さな小さな石が残ったのは、何か意味のあることなのだろうかと、ぼんやり考えた。
体の中の小さな石は、さらに小さく砕かれ、体外に出された。
しかし、小さな欠片が一つ、体に取り残されてしまっていた。
***
信号を渡った先の、小さな郵便局は、ATMに並ぶ列が外にまで溢れていた。
最後尾に並んだ私は、待っている間に、もう一度靴を脱ぐ。逆さまにした靴から、小さな石が地面に落ちた。もうこれ以上、靴の中には石はないようだ。
私の体の中の、小さな小さな石は、いつなくなるのだろうか。