帰るところ

朝から雲一面の空は、夕方には地面を濡らす。

傘を新調してから、それまで使っていた傘は、目につかない傘立てに置き去りにされていた。「懐かしい」と言いながら、その傘を差す娘と、スーパーへ買い物に行く。

忘れ物を取りに、度々娘が帰って来る。そのせいか、娘が家を出たという実感がまだない。とはいえ、娘が帰ると、静かな家は賑やかになるし、「泊まる」ための準備が多少必要になる。そう思うと、もうここは彼女にとって「実家」なのだと感じさせられる。

 

 

実家は変わらぬもの、だと思っていた。
しかし、私が結婚するまで住んでいた家はなく、のちに母は三回引っ越しをしている。
最後に引っ越しをした住まいは、本来、母は一人暮らしをしているはずだった。
しかし、現在そうではない。

帰省する私に、休みづらいかもと言いながら、先日、休みを取ってくれていたことを知った。週の真ん中から、週末まで滞在しようかな、などと考えていた。

その晩、布団に入ってもなかなか寝付けぬ私は、ふと、忘れていたことを思い出した。実家は居心地が良いとは、言い難かった。前回泊まったときの光景が、断片的に思い起こされた。帰省する身としては、そこの生活を乱すつもりもないが、合わせるのが窮屈だと感じることがあった。
ここは私が住んでいた家ではないにしろ、娘に戻れる実家でもなかった。

いろいろ考えているうち、自然と涙を流していた。
実家、家族、私、いろいろなワードが頭を駆け巡る。