帰省

自分がとてもちっぽけに感じる。小さな窓から見下ろす景色は、人も車も形を捉えられない。広がる土地に街があることだけが確認できる。しばらくすると、辺り一面真っ白になった。下から見上げる雲とはまるで違う。ハイジのように本当に雲の上に乗れるような気がした。

目を閉じると、すぐに眠りについた。気が付くと空港に到着していた。

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玄関を開けると、見慣れた光景が出迎える。ごちゃついている部屋だが、やはり自宅に着いたという安堵感で気持ちが落ち着く。
小さなカレンダーの日付の上に、赤のマジックペンで斜め線を入れる。不在は四日間だが七本の線を引く。日付を消すのを忘れるほど、帰省前にバタバタしていたのが伺える。

帰省の際は、県は異なるが同じ近畿圏内の両家の実家へ帰る。三泊四日では短い滞在期間となるが、その合間に父に会うことにした。私が実家と呼ぶのは、今、母が住んでいるところを指す。

父に会うのは六年ぶりだった。
予約しておいた店のテーブル席につく。注文を終えると、すぐに父が話し始める。話題は尽きないようだ。私のおしゃべりは母譲りだとずっと思っていた。父の様子をみて、母だけの遺伝ではないことを知る。娘の私がおしゃべりなのは当然だと納得する。

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実は無意識に頭の隅に遠慮がちに置かれた「気になっていること」があるのだろうと感じた。日常では忘れているけれど、ふと表に出てきたりする。常に気になっている片付けのこととはまた異なる。
私が思うままに動けばいい。行動をおこす理由をわざわざ探す必要もない。空から眺める景色に、地上で生活する様子など見えはしない。何をしても誰も気にも留めない。ちっぽけな私に、そう語りかける。