2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

行動履歴

<「彼女にはアリバイがあります」そう言わせる自信があった。証拠は財布の中に山ほどあった。> *** これで四回目だった。店員さんが毎回違うことが、せめてもの救いだ。しかし親切心を無下にするにもほどがある。「ポイントカードが未登録のようです。…

平日と休日

平坦な道を10分ほど歩いたところで、まだ目的地までの半分の距離だった。ここからはずっと上り坂になる。あと少しで坂の終わりだというところで、私と同じ服を着た子達が続々と坂を下ってくる。「今日休みだって」という声が聞こえた。台風や雨の影響で学校…

蒔いた種を狩る日まで

外に出ると思いのほか、風が強かった。自転車のペダルを踏む足に力が入る。長い髪が後ろになびく。まだ家を出たばかりだったが、橋に差し掛かったところで、橋の向こう側は異世界と言わんばかりに「もう引き戻すことはできない」と脳内で指令される。私は果…

カケルもの

一方通行で幅の狭いこの道は、裏手にメインの道があるため、通る車も限られていた。視線の先に止まっている車も、この通りにある店のロゴが入ったトラックだった。ちょうど搬出入作業が終えたようで、私がその店の入口に着く前に、トラックは次の目的地へと…

規格外

白く塗られた木製の引き戸は、厚さが3㎝あった。少し重く感じるのは、毎回すんなり開かないせいでもあった。引き戸を開ければ、上段と下段を仕切る板がある。機能は押し入れと全く同じで、ここも「押し入れ」と呼んでいた。引き戸を開閉するたび、蓋付きの…

時々訪れるチャンスの日

昨晩は、なかなか寝付けなかった。いつもより二時間近くも早く床に就いたのだから無理もない。リスクを伴うことを考えると、もうこの時間もギリギリだった。 朝4時半起床。と同時に夫を起こす。すでに昨日のうちに準備は万端で、夫を送り出すまでの朝のルー…

私のベクトル

名もないまま、鞄の内ポケットに収められていた。そういうところがあるのも私らしい。 *** 「片付けられない」ことの後ろめたさが、いつも赤信号を灯らせていた。そこに留まっているよう強制をされているわけではない。きっと、いつでも信号を渡って良か…

ノートの課題

肌にあたる空気が動いた。庭先をみると、木々の葉が揺れていた。アジサイの大きな葉も、庭一面の雑草も揺れていた。ベランダの手すりには珍しい訪問者がいた。ゆっくり歩く姿をつい見入ってしまう。ベランダから庭に出るところで、手すりは途切れている。端…

リズムを上手く刻むこと

網戸越しに見える庭の雑草が、日陰でゆらゆら揺れていた。それとは違い、手前の雑草は太陽の光を浴びて微動だに動かない。室外機の熱風で揺れる雑草は、敷地の向こう側に建つ家のエアコンの稼働を知らせてくる。窓を開け扇風機で暑さをしのぐ私は、雑草の成…