ノートの課題

肌にあたる空気が動いた。庭先をみると、木々の葉が揺れていた。アジサイの大きな葉も、庭一面の雑草も揺れていた。ベランダの手すりには珍しい訪問者がいた。ゆっくり歩く姿をつい見入ってしまう。ベランダから庭に出るところで、手すりは途切れている。端までたどり着いたカマキリはその先がないことを知り、そのまま動かずじっとしていた。幾分か暑さの和らいだ朝だった。

B5の青いノートは残り数ページになっていた。見開きで三週間分の予定が書けるよう、ページに線を引く。もう老眼鏡なしでは、ドットが見えていなかった。三週間目の土日が近づくと、次の見開きページに線を引く。すでに、電話でのやり取りのメモや、お金の計算や、間取り図で埋まっていることもある。なんでもこのノートに書き込んだ。決して漏れのないように。
ノートの最初のページが何月かすぐには分からなかった。最初の升は中途半端に八日になっていた。曜日と日付が合う月が、何か月遡っても見当たらない。ようやく辿り着いたのは昨年の11月だった。書き込まれた内容をみて、そうだったなと思い出した。掃除をする箇所が書かれている。早くから少しずつ大掃除を始めようとしているのが分かる。結局、終わらなかったことを覚えている。他には、カード、携帯、年金とそれらを調べようとしていた形跡が見て取れる。今でも赤線で消されることないワードは、ノートの後ろの方のページに再度記載されていた。

平日、何もしないという日はこの頃なかった。それでもノートの文字に赤線を引く箇所は限られている。それ故、「片付けの終わり」の期日を決めるのを避けていた。ガラスの引き戸に張り付けてある、二か月ごとにめくるカレンダーはあと三枚しかなかった。今年はもう折り返していた。

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『ゆめ子さん、期日を決めんでもええで』

「決めるのも決めないのも、なんかなぁ」

『大丈夫やて。やることリストは必ず終わるから』

「う~ん。次カレンダーをめくるとき、どのくらい終わってるかな」