ナイトルーティン

携帯電話のライン通知が鳴る。送り主は分かっていた。いつも決まったスタンプが送られてくる。こちらも決まったスタンプを送り返す。制限時間は30分。ライン通知の時刻はすでに20時を回っていた。
洗濯物を干しっぱなしだ。急ぎつつも丁寧に一枚ずつ払うことを忘れずに取り込む。あの日以来そうしている。すでに取り込んだ、まだ湿気のある洗濯物を部屋干ししている場合もある。ならば鴨居から取り外しておく。玄関の靴は並べられてはいたが住人の数より多い。下駄箱にしまう。

すでに夕食の準備は整っている時間のはずだが台所に立つ。お肉や揚げ物だけなら魚を追加する。ラインの送り主が帰宅する。制限時間だ。まだ食卓にお皿を並べている途中だった。時には調理が終わっていないこともある。

家族4人が揃って夕食を食べることはあまりない。順番も時間もまちまちで私は誰かが食卓につくと食べ始める。

ラインで連絡をくれた夫は帰るとすぐ食事をする。席につくと遅れて私も席につく。テレビ画面は録画放送かYouTubeチャンネルだ。夫が登録しているチャンネルを一緒に観る。その中でも毎日投稿されている、あるチャンネルを観るのは私の楽しみだ。そのため視聴中にお酒を飲むグラスに氷をガシャガシャつぐことがないよう、夫に気を遣わせる。登録されているチャンネルの中で投稿がぼちぼちのものが一つあった。このチャンネルのことは私が一番よく知っている。唯一夫と一緒に観ないチャンネルだった。

洋室にあるこたつ机で青いノートを広げる。B5のノートは見開きで一ヶ月ではなく中途半端に三週間分の予定を書けるようになっている。その分一つのマスが大きい。せいぜい一週間分の予定を書き込む。銀行や美容院など外出予定は稀で、だいたいが片付けに関するやることリストに買い物メモだ。

0時までには食事のあとの洗い物を済ませよう。八分目までしか水が張られていない茶碗に十分目まで注ぐ。
カラスの行水でお風呂を済ませる。メイクをしてようがしてまいがメイク落としと洗顔が一緒になった洗顔料で洗う。今朝使ったものと一緒だ。上がったら歯を磨く。

夫はすでに寝ていた。一旦鴨居から下ろした洗濯物を戻す。洋室に戻り考え事をする。気が付けば1時30分になっていた。携帯電話のアラームをセットし寝床につく。

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『ゆめ子さん、この頃は明るいうちに洗濯物を取り込むようになったやん。とにかく夫さんが帰るまでには取り込んでおきたいんやな』

「洗濯物を取り込んでいるときに虫が入ることもあるでしょ?帰ってくる前なら虫退治もできるけど。虫を追っかけている時間はないんだけど。とにかく夫は蚊が嫌いなの。もうこの時期からいるよ。鴨居に洗濯物を干すのは私もいいとは思ってないよ。一番目立つ場所だし、けど一番乾くところなんだよね」

『1階やし庭もあるしな。虫がいる環境やわな。洗濯物が鴨居にかかってるんは、まぁ視界に入って精神的にも物理的にも邪魔やわな。夫さんもいらんやろ。そこに干すのを回避するためハンガーラック買ってたやん。いつの間にかその日の洗濯物じゃなくて服がかかってるけどな』

「改善しようとは思うんだけど。結局なんかうまくいかない」

『せやな。洗濯干すためのハンガーラックも使用頻度の少なさが負けの原因みたいやし。ちょこちょこ改善してもあかんやろな。部屋全体を見渡してみるとこからやな』