2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

日々

電車の警笛が鳴った。 ドアが閉まるというのに、小さな駅のホームには残る人がいる。特急や急行が走る路線ではないので、この駅で後から来る電車を待つ必要がない。 電車に乗らなかった彼らに視線を向ける。お父さんとお母さん、二人の前に小さな男の子がい…

余裕なき

玄関の方から、物音がした。インターホンのカメラを覗くが、誰もいない。 積み上げた”もの”たちが、少しずつ崩れ落ちてる音かもしれない。玄関近くの、もう娘の元部屋だという名残もないほど散らかった、自室に向かう。 パソコンからデータを送ったプリンタ…

「私」と向き合う

特別お題「わたしがブログを書く理由」 ※はてなブログ企画※ いつか記しておきたいと思っていた。いい機会かもしれない。少し語ってみようか。 もう昔のことで覚えていない。”趣味は読書”という少女だったら、きっと覚えているのだろう。 夏休みの宿題で、一…

花朝月夕

心地よい風に当たると、なんだかホッとする。一日に一度は、部屋の空気を入れ替える。時には湿った空気が入ったり、かえって部屋の暑さが増したりするが、涼しい風が通ると、堂々と窓を開けられる。 昼間はまだ暑いが、朝夕過ごしやすくなった。”そろそろ遥…

心模様

彼女はいつも笑顔だ。こちらまで、自然と明るい表情になる。 近所に住む彼女、咲希さんとは、ごくたまにすれ違うことがある。互いに、もしくは片方が自転車に乗っている、そんな状況もあって、立ち止まることはない。挨拶を交わすのみだ。 駅前のクリーニン…

半人前

置時計の横に、新しいアイテムが並べられた。毎朝、そこに書かれた言葉に目を通すようにした。 駅を降りて、日傘がないことに気付いた。その上、腕時計も忘れている。日傘なんぞ、今年の夏に初めて手にした。腕時計も以前は着ける習慣もなかった。今では、毎…

不意打ち

部屋で寝ている私に、会社に出勤しようとしている夫が、声を掛けた。寝ぼけた様子で見送った私は、寝過ごしたことを認識するのに、間があった。 授業の内容や進み具合から、今週は、特段時間に追われるようなことはない、はずだった。予め説明会でも聞いてい…

孫の祭り

初めて耳にした言葉だった。皆が集まる機会だと、夫の母が言った。 彼ら兄弟に会うのは久しぶりだった。弟の方は数年前に上京し、我が家からさほど遠くない場所に住んでいる。それでも今年はまだ一度も会っていなかった。兄の方というと、最後に会った日が思…