心模様

彼女はいつも笑顔だ。
こちらまで、自然と明るい表情になる。

 

近所に住む彼女、咲希さんとは、ごくたまにすれ違うことがある。
互いに、もしくは片方が自転車に乗っている、そんな状況もあって、立ち止まることはない。挨拶を交わすのみだ。

駅前のクリーニング屋へ行く途中、向こうからよく知る人物が歩いてきた。今日は互いに自転車に乗っていない。
立ち止まって、つい話し込んでしまう。
彼女の、包容力を感じさせる、優しい声が、会話を弾ませる。

 

 

よくないな、とこの頃感じていた。
疲れた、時間が足りない、終わらない、分からない、文句のオンパレードだった。確かに、言葉のとおりの事実はあるにせよ、訓練校の帰りの日課のようになっていた。
私の声が、私の耳に定期的に届ける言葉は、私の身体を蝕んでいないだろうか。

少し周りをみた方がよい。
同じ状況下で皆は、どう感じ、どう捉えているのか。

休憩時間には、恋バナに花を咲かせるクラスメイトに交じる。主人公は決して私ではないのに、まるでフラワーシャワーを浴びているようで、こちらが幸せな気分になる。

 

 

クリーニング屋から戻った私は、今度は自転車に乗って、スーパーへ向かった。
夕飯時の人混みの多い店内で、咲希さんを見つけた。今日はよく会う日だ。

しばらく買い物を続けていると、今度は樹希ちゃんの姿を見つける。
噂をすればなんとやらで、笑ってしまう。

というのも、咲希さんと、共通の友達である樹希ちゃんの話をしたばかりだったからだ。今度、樹希ちゃんちに押しかけようなんて話をした。

 

 

締切は、少し先だった。それほど、ボリュームのある課題が出たということだ。
少し気を引き締める。と同時に、楽しく作業に取り組むことにした。

作業の合間は、クラスメイトの恋の進捗に、耳を傾けるのも良いかもしれない。