頃合いを見計らって、オーブンのスイッチを入れた。
メニューは先週と同じだ。
私が片付けもできなければ、料理もできないことは、友人たちは皆知っていた。
お昼は用意できたらするけど、出前を取ってもいいしなどと保険を掛けつつ、「オーブン 簡単」でレシピを検索する。
たまに逢衣子さんから連絡が来る。
何か月も日があいていても、端的に用件が伝えられる。私はいつも、申し訳ないくらいに彼女の誘いを断っていた。時にどこどこに行こうは、どこどこに興味がなかったり、ランチに行こうは、気乗りしなかったり。こちらの返事も、彼女に言い訳は必要なく、あっさりしたものだった。
明日、空いてる?と久々に逢衣子さんからラインがきた。
空いてるよと返事をし、初めて彼女を我が家に招待した。
尽きない話の途中、「優羽美さんは?」と聞かれた。
「彼女も辞めたよ」と答えたあと、私はこう続ける。
「優羽美さん、先週うちに来てたんだけど」
逢衣子さんの紹介で、私は逢衣子さんと同じ職場で一緒に仕事をしていた。同じ職場の別の部署にいた友達が、優羽美さんだ。
逢衣子さんはもう随分前に辞めていて、私もまた辞めていた。そして、優羽美さんも。
「会いたかった~」と逢衣子さんは言ったあと、馴染みの店に行ったときの話をし始めた。店主に、”さっき優羽美さんがおにぎりを買いに来たよ”と言われ、同じ日に店を訪ねていたという。
「えっ?先週って、そのおにぎり、うちに持って来てくれたやつだよ」
野菜と鶏肉のオーブン焼きは、先週はおにぎりと、今週はパンと一緒に食卓に並べられていた。
初めて我が家に優羽美さんが来た日、もう一人客人がいた。我が家の勝手を知ってる深和ちゃんだ。三人で会うのは実は初めてだった。互いに共通の友達なので、そんなことも感じず、話は弾む。
またいつか、初めての来客や、初めての顔合わせなど、あるかもしれない。
そういえば、逢衣子さんと優羽美さんと三人で会ったのは、いつだっただろう?
いや、私の記憶にはなかった。今度は、二人を招待しようと思う。
野菜と鶏肉のオーブン焼きで。