少しずつ

ビルの谷間から、オレンジ色の光が放たれている。上空の雲が色づいて、そこだけ異空間のようだ。
土手に上がると、川の向こうのビルの群れが良く見える。

下流に向かってしばらく歩くと、向こうから遥子ちゃんが現れる。わりと早くから私は気付いていたが、手を振るのは、距離が縮まってからにした。遠くにいる私を、遥子ちゃんは、私だと確信が持てないようだ。

太陽はビルの谷間に静かに沈んでいく。河川敷の野球場はライトアップされ、その光を白いユニフォームが反射させている。同じ道を戻ってくると、先ほどのビルの群れは、また様子の違う景色を見せてくる。

「綺麗だね」

遥子ちゃんは、先週も川の向こうを見ながら、同じ事を言っていた。そして私も同じ回答をした。

「綺麗だね」

 

数分前、こんな優雅な気分ではなかった。二人して、大きな声を上げていた。
急に枯れ葉が、ぴょんと跳ねたのだ。踏まなくて良かったと、心底思った。枯れ葉色をした蛙に出くわした。

 

 

以前のように、週初めに遥子ちゃんに連絡をするルーティンが復活した。
他にもまだまだ、一週間のリズムの中に、やりたいことを詰め込みたい。しかし、なかなかそうもいかない。

 

この頃、よく考えていることは、少し先と、もう少し先と、もっと先の、「私」だ。ぼやけた輪郭をはっきりさせようとしている。

そこに向かって、リズムを整えていけば良いのだ。輪郭をはっきりさせたら、リズムの内容も決まってくる。今のリズムからガラリと変えることは難しくても、小さな変化が積もって、私が想像する”少し先の私”に必ず辿り着く。

 

想像や妄想の世界に入り込むと、とっても邪魔なものがチラつくのである。

『ゆめ子さん、はよ、片付け終わらせよ?』

本当にそうである。