愉快

マグカップが空になったら、その都度「正」の字の一画を書く。二文字書くことで、一日の水分量が二リットルになるよう数えていた。しかし「正」の字が完成しない日も、よくある。

夫がどこぞから頂いた、知らない企業名のロゴが印字された水筒のことを思い出した。480mlの容量のこの水筒に、四回お茶を入れて、あとほんの少し足せば二リットルになる。なぜだが「正」の字を書くより、スムーズに水分を取ることができた。

 

しかし、水筒を使い始めて三日目の今日、中身の減りが遅かった。
それもそのはずで、時折水筒からお茶を注ぐも、今日は”コーヒーメーカーから注がれたコーヒー”を、”急須から注がれたお茶”を、飲んでいた。

四つのマグカップと四つの湯呑みが食卓に並ぶ。

 

昨日連絡をくれた瑠海さんが、約束していたパンを持って一番にやって来た。彼女の言葉に甘えて、パンをリクエストした。もらった食パンは、彼女の手作りだ。
続いて、深和ちゃん、樹希ちゃんがやって来る。

 

最後にやって来た樹希ちゃんは、私の向かい側に座った。彼女の背に飾られた額に、やはり気付いていないようだ。確かに座った位置からは見えない。夫が気に入って、額縁におさめて飾ったポスターは、彼女からもらったものだった。

ポスターには気付かなかった彼女だが、急に「美味しそうなパン!」と言い、左手にある棚に視線を向けた。私達は瑠海さんの美味しい手作りパンを、今まで何度もご馳走になっている。そう、まさに視線の先のパンは、さっき瑠海さんからもらった食パンだった。

「これは、私のもの」と私は答えた。

瑠海さんちの猫ちゃんのお世話をするため、今日は自宅の鍵を持って来てくれた。食パンはお礼に頂いたのだった。

深和ちゃんは、ちょうどみんなに頼まれていたものを届けようと思っていた、と言う。重たい瓶を持って来てくれた。

 

最後に、もう一軒のお家の鍵を預かった。
瑠海さんちの猫に会う前に、樹希ちゃんちの猫に会うことになった。

 

今日は偶然、四人が揃って集まった。瑠海さんと今日の約束をしたのは昨日だったし、深和ちゃん、樹希ちゃんに声を掛けたのは、今日だった。
必然だったかのようで、なんだかおかしかった。