行動履歴

<「彼女にはアリバイがあります」
そう言わせる自信があった。証拠は財布の中に山ほどあった。>

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これで四回目だった。店員さんが毎回違うことが、せめてもの救いだ。しかし親切心を無下にするにもほどがある。
「ポイントカードが未登録のようです。ポイントをお貯めすることはできますが、ご使用にはなれませんので、、、」
会計時にコンビニの店員さんが言う。印象に残る客に違いない。今まで何回も未登録のポイントカードを提示していた。親切にそう教えてくれた四人の店員さんに、申し訳ない気持ちだ。気付いていないが、実はその後も同じ店員さんに接客されているのだろう。同じ人が二度言わないのもまた、親切心なのかもしれない。次回行くまでに登録をしよう。
⦅すぐ、せえへんよな⦆

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つい「不揃いバウム」を購入してしまう。豊富な味の種類から選ぶのは毎回楽しい。レジの順番が近くなり、「あっ」と気付く。レジ前に置かれた「不揃いバウム」が、さっき売り場で気付かなかった「夏季限定の味」だったからではない。クレジットカードをまだ入れ替えていないことを思い出したからだ。
この店でしか使わないクレジットカードだった。カードの有効期限はまだ先なので使えないわけではない。前回と前々回、クレジットカードが機械に反応せず、店員さんを手間取らせていた。ただ私もどうすることもできないわけだが、実はセキュリティ強化の目的でICチップ付MUJI Cardが送付されていたのだ。新しいカードなら恐らく問題なく機械に反応するだろう。カードのサインも求められずに済むのだから、お互い、もうひと手間省けるのだ。
反応の悪い旧クレジットカードを使う、印象に残る客を回避したい。ドキドキしながらレジを見守る。今日は大丈夫だったようだ。次回行くまでに入れ替えておこう。
⦅すぐ、せえへんよな⦆

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昨日の晩御飯は?と聞かれても、サッと出てこない。今週、何曜日の何時に何をしていたかと聞かれても尚更である。しかし、万が一アリバイとやらが必要ならば、簡単である。大概行くところは決まっていた。近所のスーパーか薬局。財布の中のレシートを時系列に並べれば、過去の私の行動が見えてくる。紙袋をひっくり返せば昨年、一昨年でも追うことができた。
⦅レシートってアリバイの証拠になるん?⦆

書類整理に取り掛かり始めた日から、数か月が経つ。まだ終わっていなかったが、レシートはごみ袋の中だ。残念ながらもう過去のアリバイは証明できなかった。