キッチンには小さな箱が二つ並べられ、それぞれにメモが貼られていた。
メモに書かれているスプーンは、箱の隣にあった。
左の箱の中身と、スプーンを持ってキッチンを出ると、すぐに彼がやって来た。
スプーンを使って、食事を皿に出している途中で、彼は待ちきれず食べ始めてしまう。
今度は右の箱の中身を持って、部屋を出る。この家にいるはずの彼女は、何度ここを訪ねても姿を現すことはない。今日は、家主から聞いた彼女の居場所へ、こちらから向かう。一つだけ扉が開いたままの部屋がある。そこを覗くと、奥の窓際に、こちらをじっと見ている彼女がいた。
こちらから出向いても、ここの住人でないと彼女は逃げてしまうらしく、
「ゆめ子ちゃんからは逃げない!すごい!」と言われると、ちょっと嬉しかったりする。
しかし、彼女に「来たよー」と声を掛けても、なんの反応もない。
彼女の皿にも食事を用意し、またキッチンへ戻る。
私を待っていたかのように、先ほどの彼が迎えてくれる。彼はとても人懐っこい。家主からの頼まれごとを、私がひととおり終えると、彼は構ってくれとばかりに、私の手に顔を寄せてくる。仰向けになって腹までみせてきて、全く警戒心がない。
猫と一緒に暮らしたことのない私は、彼の要望に満足に答えられているかは分からないが、彼の顔や体を撫でてやる。
しばらく彼と遊んだら、帰り支度をする。部屋の扉を閉めるまで、ずっと私と目が合っている。
家主の帰りを待つ彼らに「帰るよー」と手を振って、帰路につく。
ゴールデンウィーク中の癒されたひとときだった。