約束

ここに立つ度、赤い文字が目に入る。
キッチンと、向かい合わせに配置した食器棚との間は、一人立つのがやっとだ。腰ほどの高さの小さな食器棚の上は、ちょっとものを置くのに都合がいい。赤い文字で書かれたメモはここにある。

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土手の向こうから、彼女がやって来る。人混みに隠れて、私の姿をなかなか確認できなかった彼女は、「ゆめちゃん、もしかして忘れているのかと思った」と開口一番、私に言う。確かにそうで、「うん、忘れそうで心配だった」と答えた。彼女もまた、それに同意した。
毎週、週の初めに彼女とウォーキングをする日を決める。ラインをしたのが月曜日で、今日は金曜日だった。ましてや祝日明けの今日は、曜日を勘違いしかねない。

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先の予定を忘れそうになる。携帯電話のスケジュール帳を使いこなせず、リマインド機能のない、紙に書く。食器棚の上はメモだらけだった。その中に埋もれてしまわないよう、赤いマジックで大きく「ウォーキング」と書かれたメモはひと際目立っていた。

愛用の青いノートは、とうに最後のページまで使い切っていた。それでも余白部分を探して、縦と横の線を引き、無理やり十月のスケジュールを月の途中から書き込んだ。十一月から気持ちを新たに、新しいノートを使うはずが、青と黒と白の三冊セットで買ったノートは、まだ未開封のままビニールに覆われていた。メモは増えるばかりだった。

今月はいつもと違う予定が、ちらほら埋まってきた。予定が入っているのは、まだこれからだというのに、何もない今週でさえ数時間しか片付けができずにいた。一週間ごとに一箇所ずつ片付けると決めた、最初の週がこうだと先が思いやられる。

 

今日もまた新たな予定を一つ、メモに書き足した。小さな文字で埋め尽くされたメモは、大事なことを見落としそうだった。
今日こそ、青いノートに線を引く。自分との約束もここに書き留めていく。