涙が今にも頬を伝いそうだった。
彼女も私も、互いに今日は暖かいものを着込んできたと、報告しあう。
それでも、風の冷たさを感じながら、決まったコースを歩く。
彼女と別れるいつもの角で、足を止めておしゃべりが続く。
「背中をさすらせて」
帰り際、彼女が私の背中に手を当てた。
「泣きそう」
手で目をこする真似をして答えた私だったが、すでに目頭は熱くなっていた。
背中に彼女の手のぬくもりを感じたまま、手を振って別れた。
昨年の夏、たった一つの小さな石が、私を苦しめた。
自然に排出が期待された石は、一日二リットルの水分補給もむなしく、半年経った今も、微動だにせずレントゲンに写りこんでいた。
年内の目標として掲げていた、「石を体内から出すこと」は達成されることはなかった。
手術で石を取り除くことが決まった。
手術を控えた私の背中に、彼女は優しく手を当てた。
彼女はいつも心配してくれる。この話に触れる度、会話の途中、祈るよう両手を合わせてくれる。手術が決まったあとも変わらず、自然に石が流れますようにと。
週一回、彼女と河川敷を歩く。
次回のウォーキングは、お茶をして帰ろうと約束した。
春になったら、電車に乗って、お花見へ行こうと約束した。
そして、これからもずっと、ウォーキングを続けようと約束した。