帰還

青い空をみたら、顔が緩んだ。
「気持ちのいい天気だな」
ゴミを出すために表にでた。ほんの少し、外の空気に触れただけで、昨日までの自分をリセットできた気がした。

        ***

週の初め、一通のラインが来た。
「手伝い、これない?」
彼女からラインが来ることなんて珍しい。

元の職場に来たのは、辞めた日以来だった。懐かしい顔ぶれに挨拶もそこそこにすぐに仕事に取り掛かる。右も左も誰も使っていないデスクの上には、「もの」が置かれ、前も後ろも視界は「もの」だらけだった。この場所にいると、片付けたくなる心理はなんなのだろう。しかしそんな時間の余裕はない。人の手が足りないと彼女に呼ばれたのだ。彼女の指示がなくても、やるべきことは把握している。ただ黙々とやる。一週間ほどとお願いされていた手伝いは、最初から無理だと伝えていた。三日目に「今日までね」とそれ以降は断った。ここは私の居場所ではない。

        ***

ゴミを出したあとは、昨晩からシンクに残したままの洗い物を片付ける。昨日の洗濯物を畳み、掃除機をかけ、シャワーを浴びる。シャンプーが空になった。今日に限ってその横に並んでいるボディシャンプーも、もう一つのシャンプーもほとんど空だった。
⦅シャンプーは「ゆめ子さんと娘ちゃん」、「夫さんと息子くん」と別なんや⦆
どれもストックはあった。すべて詰め替える。
ひととおりの家事を済ます。時間は気にしない。

一瞬だけ、過去に戻った。ずっと、あの生活リズムで過ごしていたのだなと冷静になって考える。いつもの、正確にはパートを辞めてからの私は、彼女のお願いだったとしても断っていたはずだ。なぜ応じたのか分からない。

洋室の角に目を向ける。書類整理も目途が立ってきた。これが終わったら、次は衣類だな。日常の思考が戻る。

一ヶ月ほど前に庭の草を刈ったが、小さな鎌が出しっぱなしだった。少し刈り足りないところを後日しようと思って、今日までそのままだ。こういうところが相変わらずだった。結局、残っていた一部の草が目立たないほど、刈った草は成長している。草の上を歩くと、ドクダミの匂いがした。

明日も青い空を見上げる。庭を歩く。常に心は穏やかでいたい。
⦅明日は雨やで⦆
今日も明日も私は私。そして淡々と片付ける。