エプロンからみえること

ほつれた糸を目にするたび、気にはなっていた。ひととおり家事を終えたところで、お腹の前のちょうちょ結びをほどく。糸のほつれのせいで、元の幅より細くなった紐は絡み合い、ほどくのを手間取らせていた。色褪せたエプロンがようやく体から離れたとき、左手には先端から結び目までの短い紐を、右手には左右の紐の長さが違うエプロンを手にしていた。

 

以前に比べ随分ましな状態だった。食器をしまう、洗濯物を畳む、掃除機をかける、朝のルーティンを終えたあとは、一見「片付いている」ふうである。物はどこかには収まっていた。

洋室の端にある二段に重ねた引き出し型の収納ケースの上は、とりあえず置くのに格好の場所だった。押し入れから出した書類をその上に置き、こたつ机の上で広げるという流れで、この頃書類整理を日課にしていた。

ズボンの修繕のために出したミシンは、用事を終えても元の場所に戻らず、収納ケースの前に置かれていた。偶然、立て続けにミシンを使う機会があったが、最後に使ったのは10日も前だ。衣装ケースに引き寄せられるように、物が集まりだしてきた。油断をしたらすぐこうである。

 

ある公園の催しで、ハンドメイドの布の作品が販売されていた。かわいい作品がたくさん並べられているさまは、みるだけでもワクワクした。今使っているエプロンはその時出会ったもので、唯一私が選んだものだった。それまでは結婚のお祝いなどで頂いたエプロンばかり使っていた。

エプロンのちぎれた紐に代わるものは、洋裁箱の中にいくらでもある。色が褪せたエプロンを改めてみると、思った以上に年季が入っていた。取れずに諦めたシミもある。紐だけ付け替えることはやめて手放すことにした。押し入れにはエプロンを作るのに、ちょうどよい端切れがあったと記憶している。紐と布があればよい。ミシンを使うのはだいたい修繕が目的だったが、久しぶりに使ったミシンは、実は縫うことが好きなのだと思い出させてくれていた。ミシンを片付けようと思った矢先だったが、ちょうどよかった。
再び思い直す。端切れの柄も悪くはなかったが、新しく布を買いに行くことにした。「私」が好きな柄を生地屋さんに選びに行く、きっとワクワクする。

シミのついた色褪せたエプロンの結び目は、今はお腹の真ん中ではなく、左に少し寄っている。ちょうちょ結びができるほど、紐の長さに余裕はない。ミシンはまだ収納ケースの前にあった。

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『ゆめ子さん、いつ買いに行くん?』

「せっかく買いに行くなら、ゆっくり選びたいの、みぃ。今は、なんかそういう気分じゃないの」