日課

いつもの癖で左手で掴んだものに重みを感じて違うと気付いた。鏡に映る私も「そうだよね」という顔をしている。そのまま手を下ろし、封を開けたばかりの歯磨き粉を元に戻す。代わりに引き出しの中から携帯用の小さな歯磨き粉を取り出した。
夫の出張、家族旅行には携帯用の歯磨き粉を持参する。たっぷり入った歯磨き粉が鞄に入れられ、残り少ない歯磨き粉は置いていかれる。いつまでも引き出しの中で眠っている小さな歯磨き粉を、今日から使うことにした。

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ソファーを背にして定位置に座った私は、見慣れた画面からファイルをクリックする。時折、神隠しにあったかのようにファイルが埋もれてしまうのは、百近くもデスクトップに置いているせいだった。名前も与えられていないファイルもあった。「新しいテキストドキュメント」の名前で保存されたメモファイルは、保存名の最後の小さな数字を判別しないとどれが新しいのか分からない。
デスクトップのファイルを一日一つ削除することにした。削除後はファイル名や更新日時などで並べ替えたりはしない。虫食い状態の画面でファイルが減っていることを実感する。

ついでに一万通以上も放置している未読メールも整理する。送り主名で検索したメールを一括削除した。使用しているサイトは配信停止、使用していないサイトは退会手続きをした。

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あることに囚われているのは自覚していた。書類が捨てられないのも、そのせいだった。こたつ机の上に書類が散乱している様子は、傍から見れば変わらぬ光景だったが、中身は毎日入れ替わっていた。洋室に持ち込んだ書類は氷山の一角で、まだ和室の押し入れの中には大量の書類が待機している。遠回りではあったが、自分の納得する方法で処分をしていくことにした。

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これ以上、決めごとは増やさないほうが良さそうだ。
「心を落ち着かせ、誰もいない静かな空間で、時間を気にせず」片付けをしたい気持ちは変わらずあった。ただ、日常の合間にできる「片付け」もある。私のなかの「片付け」をカテゴリー分けすることで「片付けられない」を少し解決できる気がした。