春うらら

事あるごとに、訪れるこの場所は、最近よく来ている。
今日はトレーナー一枚でも十分な暖かさで、ここまで歩けば少し汗ばむほどだ。
遠くからでも存在感のある、葉も花も付けていない大木が、鳥居の横で迎えてくれる。もうまもなく小さな花を一輪咲かせ、瞬く間にピンク色に染まり、行き交う人を魅了する。

 

ぽかぽか陽気の春は、好きな季節だ。
生き物がうごめき始めるように、冬の寒さで固まった体を動かし始める。
片付けの意欲も少し湧いてくる。

梅雨だの暑い夏だのと、次の季節が来る前に片を付けたい。

 

洗面台の引き出しを開けるのは簡単だが、閉めるときに少々手間取る。
詰め込まれたものが溢れて、どこかに引っ掛かる。例外なく、ここもリバウンドしている。
何を置くのか、もう一度考える。今、使っているのか、使っていないのか。
消耗品が故に、今使っていなくとも、これから使うつもりのものが多くある。試供品や、娘がもう使わないと言って残した化粧品やシャンプー、使ってみようと購入したものの、持続せず時々しか出番のない肌ケア用品、頂きもののクリーム、など。
仲間であるそれらは、同じ場所に収納するのが正解かと思いきや、そうでもないようだ。収納の大きさには限りがある。

引き出しを空っぽにして、選ばれしものだけ元に戻す。
用もないのに、どこにも引っかからなくなった引き出しを開け閉めする。

 

玄関入ってすぐの部屋は、その部屋の住人が出て行ってから、ひっそりしている。
誰もいない部屋の一角には、洗面台の引き出しに戻されず、まだどこに行くか決まらぬものたちが、並べられていた。