ときめき

星の形に似た葉が、こぼれ落ちるように小さな鉢からあふれ出ている様子が、愛くるしい。それとは打って変わって、対角線上には大胆で大きな葉をつけた植木鉢が、直置きされている。ナチュラルな色の家具で統一されたこの部屋は、まさに癒しの空間だ。ここでハーブティーを飲みたい。
⦅統一感は当たり前やねん。ここで飲食したらあかん⦆
隣の部屋は在宅ワークが快適にできるよう、いくつかの机とオフィスチェアがセンス良く配置されている。たまには気分を変えて、立ったままキーボードを打つのもいい。ボタン一つで簡単に調整ができる机は、立つとちょうど良い高さにもなる。
⦅こんなたくさん机とイスいらんねん⦆
奥の部屋はドレッサールームと呼びたくなる部屋だ。鏡を囲うように付けられたいくつものライトが眩い。ここなら心ときめいて、毎日肌の手入れもするだろう。
⦅ときめかんでも肌の手入れはしぃやー。皮膚科の保湿クリームさえ、塗り忘れてるで⦆

ようやく辿り着いた、素敵な部屋に。
⦅ようやくってここそんな遠くないねん。
部屋片付いたんかと思わせてるけど、自分ちちゃうやん⦆

都心にイケアができるとは予想外だった。

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「小さな場所から片付ける」これは片付け本の定番文句だ。
中身を出して、使っていないものを処分して、残りを元に戻す。今日はこの引き出し、明日は本棚の一段目などと、小さく場所を区切れば片付くとでも?と、私は言いたい。
確かに、だいたいの「もの」は仲間分けをして収納はされてはいるが、そもそもそこの住所で良いのか、から始まるのだ。家の「もの」に一番触れる私の動きと、癖と、そして性格をもっと深く考える必要があった。なぜなら何度も失敗に終わっているからだ。私が「もの」に一番触れる状況であるのは、家族が「もの」の場所を把握していないということでもある。これを解消するなら、私の動きだけでなく、家族が使いやすい「もの」の場所も併せて考える必要があった。

家中の「もの」をひっくり返して、家族総出で片付けるというのも難しい。もし可能だとして、すべての場所が一瞬に片付いても維持できるかは分からない。不具合も出てくるだろう。

すべての部屋を見渡す。子供達の部屋を除けば、たかだか2DKの間取りなのだ。しかしその空間に「もの」はたくさんある。
もちろん収納家具を増やすつもりはない。どこから手をつけようか。思い描く部屋にするには、整理整頓の前に、ぎゅうぎゅう、ぐちゃぐちゃ、ごちゃごちゃ、ぱんぱんの場所から、結局は「もの」を減らすことだと気付く。

どうにも片付け本から得た知識を活かせなかったが、「ときめく」か「ときめかない」かをまずはやってみることにする。
一冊の本が世に出る前には、何度も校正されているはずだ。片付けもまた何度も校正して、ようやく形になっていく。

街の洋服屋さんは、すっかり秋色に染まっていた。そして二か月ごとのカレンダーは、とうとう残り二枚になった。