一人暮らし

薬局で無償でもらえるダンボールを、使い勝手が悪いと不満を漏らすのはお門違いだ。店頭に並ぶ商品が詰められたダンボールは、サイズが大きいのも無理もない。
ダンボールを購入するという頭がなかった。両手で抱えられるちょうど良いサイズが、案外近くで手に入るのだと気付く。ネットで調べたところ、ゆうパックの特大サイズの箱が良さそうだった。二箱用意する。

特別どこが良いという希望はない。自宅から半径二㎞の円で囲めば、最寄り駅と同じ沿線の駅、それに他の沿線の駅もいくつか圏内に含まれる。交通の便は良い。馴染みのあるこの辺りで探してみた。1DK、家電家具付き賃貸物件、検索条件はこれだけだ。
ついでに実家近くでも探してみた。ここの土地勘はない。実家は引っ越しをしたからだ。足の踏み場のなかった私の部屋はもう存在しない。

二泊三日の旅行と同じ準備をし、季節外れの服を何着か加える。あとは少しの食器と片手鍋一つで良い。玄関で折り畳み傘が目についたので入れておく。これで引っ越し準備は完了した。

新居でダンボール二箱を荷解きする。一人暮らしの始まりだ。

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『ゆめ子さん、なんでこんな妄想したん?』

「いろいろ楽になるんだろうなって」

『せやな』

「みぃ、自分だけの空間っていいよね。本当に住むならもっと詳しく調べないとだけどね。もし家族が各々一人暮らしをするとしたら、みんなこの家から何を持ち出すのかなぁって思う。自分の城に余計なものは持って行かないでしょう?ほとんどのものが置いていかれるよ」

『置いてったもん、なくても困らんやろな』

「子供部屋にある子供のもの以外は私が管理してるんだけど多すぎるよ。誰のものでもないような、家族単位が故に持っているものって結構ある気がする。私の能力じゃ無理だー。キャパオーバーだよ」

『家に残るもんに問いかけたらええかもな。みんながいらん言うてるでーって』

「一つ一つ見直していくのはいいかも知れない」

『ところでゆめ子さん、パソコン持っていかへんの?』

「忘れてた!パソコンは必須。商売道具なんだから」

『商売道具って、まだやん。まぁこれからな、有言実行してや。まずは新しく何も買わんと生活するつもりやろ。場所取るけど、テレビをモニター画面にしとるパソコン持っていくしかないんちゃうん?ま、妄想の一人暮らしやけどな』