月に願って ゆめ叶う

「マチダ」という場所へ向かっていた。途中の乗換駅は、帰省の時に利用する駅と同じで、方向音痴の私でも不安はなかった。しかし、自宅の最寄駅から電車に乗ると、すぐに緊張しはじめた。目的地が近づくにつれ、さらに緊張が増していることを自覚した。

今日の日を楽しみにしていた。家を出るまでは、間違いなくそうだった。電車に乗った途端、急に我に返った。自ら彼女に連絡した事実は間違いないが、勇気を出してよく行動に移したなと自分に感心した。だからこそ、今、彼女の居る場所へ向かっているのだが、急に現実味を帯びて、どきどきしていた。

 

「マチダ」駅で降りるのは初めてだった。改札を出て、早速どっちへ進めばいいか分からなくなる。駅に隣接する建物の名を頼りに、行きたい方向が右なのか、左なのかを確かめる。
歩き始めると、携帯電話の画面の青い丸印が動き出す。目的地までを示すルートに、丸印が乗っかると安心した。あとはグーグルマップが案内するとおり進めばいい。
飲食店がずっと続く。目的地もまた、通常は会席料理を提供するお店だった。店の前に立つと、貸し切りと書かれた文字が目に入った。
ドアを開けると賑やかな声がした。その中に、聞き覚えのある声の主がいる。
いつも画面越しでしか見たことのない彼女が、そこに居た。

 

彼女を知ったのは、去年の初めだった。「片付け」のキーワードを検索窓に打ち込み、該当する動画を見る日が続いた。その中の一つに、彼女が片付けをする様子が映っていた。

 

都内で彼女の「オフ会」が開催された。彼女の名は月子さん。YouTuberだ。
彼女の動画を通じて、とあるきっかけをくれた、私にとって特別な人だった。

 

彼女の動画を視聴する人達が集まった。私達、視聴者だけではなく、ゆかりのあるYouTuberの方々も多くいた。彼女達が月子さんを囲んでいる、その事実が彼女のあふれる魅力を証明していた。

 

会の終わりには、店内に音楽が鳴り響く。DJでもあるこの店の大将が、曲を披露する。
紺色のワンピースを着た月子さんは、両手でスカートを少しつまみ、リズムに乗って体を揺らす。曲が変わると、今度はこぶしを突き上げる。
ここにいるみんなもリズムに乗って体を揺らす。私もまた、同じようにこぶしを突き上げる。時折、水分補給をしながら、熱気の中に身を置いた。
紺色の袖をまくった腕から、ヒートテックが見えちゃってる月子さんの姿が、愛くるしい。

 

月子さんのバイタリティーあふれるパワーを十分に浴びて、帰路につく。
そして私は、未来の自分を改めて考える。