2022-01-01から1年間の記事一覧

なんとなく

不規則に並ぶアルファベッドのキーの上に指を添えたまま、考えごとをしていた。無論片付けのことに他ならない。パソコン画面は変わらぬまま、私とにらめっこをしていた。 ここに座ると左手の本棚がいやおうなく目に入る。棚の隙間には書類が置かれ、収まりき…

一人暮らし

薬局で無償でもらえるダンボールを、使い勝手が悪いと不満を漏らすのはお門違いだ。店頭に並ぶ商品が詰められたダンボールは、サイズが大きいのも無理もない。ダンボールを購入するという頭がなかった。両手で抱えられるちょうど良いサイズが、案外近くで手…

ルームツアー

ペンキで塗装された玄関のドアが、いかにも昭和に建てられたマンションだと言わんばかりだ。どこに置いてもぴったり収まらない既存の下駄箱が、のちに購入した棚の開閉の邪魔をする。あふれる靴に困り選んだこの棚は本来下駄箱ではない。靴は水平に置けず傾…

ナイトルーティン

携帯電話のライン通知が鳴る。送り主は分かっていた。いつも決まったスタンプが送られてくる。こちらも決まったスタンプを送り返す。制限時間は30分。ライン通知の時刻はすでに20時を回っていた。洗濯物を干しっぱなしだ。急ぎつつも丁寧に一枚ずつ払うこと…

新しいおうち

彼女は押し入れで寝かされていた。他に居場所がなくかつ安全な場所だったからだ。私は身を隠すこともなく、まだ言葉を知らない彼女の顔を覗いたり、家に出入りする大人たちの様子をうかがったりしていた。大きなタンスがロープで括りつけられ2階の窓から搬…

モーニングルーティン

もうすぐ枕元で6時30分を知らせる音が鳴る。その前にアラーム機能を解除し携帯電話の今日最初の仕事を奪い取る。再度目を閉じる。このまま深く眠ってしまわないよう意識を保ち、しばらくして体を起こす。電池の残量が心許ない携帯電話をダイニングにある充…

一人になりたい

今朝はいつものルーティンとは違う。洗面所にまず向かう。水道のレバーは青色ではなく赤色の目印が付いた方に向ける。蛇口から出る水にしばらく手をさらしてから洗顔をする。 電動歯ブラシは一分が経過すると音で知らせてくる。そのタイミングで磨く箇所を変…

時間よ とまれ

少し先にみえる信号が赤色か青色か自転車を立ちこぎしながら確認する。点滅する光をみてゆっくり横断歩道に近づき地面に足をついた。 信号待ちをしている間、目線よりやや上に鮮やかな色が広がっているのに気が付いた。紫がかったピンク、淡いピンク、白の三…

終わりから始まる

さほど奥行もない引き出しには夏物も冬物も混在している。奥にはきれいに畳まれたTシャツ、手前には丸めてポイと投げ込まれたトレーナー。 汗ばむ陽気な日、静かに潜んでいたTシャツが急に出番を迎えた。⦅めっちゃ暑い日あったよな⦆重なり合った手前のト…

私と私 ひとりでふたり

ティッシュを引っ張ると意図せず2枚出てきた。やはり、もう箱の中は空になっていた。⦅ティッシュ最後のあるあるやな⦆新しい箱のティッシュもすぐさま引っ張り出した。 薬を飲んでおいたほうが良さそうだ。さっきから鼻をかみ続けている。⦅ティッシュの消…

近くて遠い場所

明日は閉館日だとふと思い出し今日のうちに足を運ぶことにした。⦅忘れんうちに行っとかな⦆ 館内をぐるりと一回りした。めぼしいものが見つからず、最後にいつものコーナーで立ち止まる。ここなら何かあるだろうと探すも、結局棚に手を伸ばすことはなかった…

桜咲く日の 私のひとりごと

昨晩降り始めた雨は、朝起きてもまだ雨音を立てていた。じきに回復する天気だと知っていた私は予定どおり身支度をした。⦅天気予報外れることもあるやん⦆ ウエストのボタンを留めるのに、少し気合いが必要な裏起毛のパンツを履き、腕を通すのも、ファスナー…