新しいおうち

彼女は押し入れで寝かされていた。他に居場所がなくかつ安全な場所だったからだ。
私は身を隠すこともなく、まだ言葉を知らない彼女の顔を覗いたり、家に出入りする大人たちの様子をうかがったりしていた。
大きなタンスがロープで括りつけられ2階の窓から搬入される様子を初めてみた。ずっしりとした存在感のあるそれらは、のちに婚礼家具と呼ばれるものだと知った。

私はこの年、お姉ちゃんになった。そして引っ越し先で自分の部屋を与えられた。
部屋にはピンクのカーペットを敷いた。タンス、学習机、収納棚、どれも茶または白を基調とした色で統一感があった。備え付けのタンスは結構な容量が入る。引き出しを出すと奥にも同じ引き出しが隠れている。入れ替えることで衣替えが簡単にできる仕様になっていた。月日が経ち、この部屋に木製の2段ベッドや学習机に代わって白い小さな机とイスが置かれた。ナチュラルな感じの家具が今も変わらず好きでいる。

学校では目立たない大人しい子だったが、家では年の離れた妹を持つお姉ちゃんとして長女らしい一面があった。妹が保育所に通うようになり小学生の高学年だった私はよく一人でお迎えに行った。仕事をしている母が帰るまで二人で留守番もした。洗濯物を取り込み、雨戸を閉める。母が遅くなる日には夕食を作ったこともあった。
学校生活においても基本宿題や持ち物の忘れ物はしない。教科書は時間割どおりの順番にランドセルや通学バックに収めていた。

ただ部屋を片付けるということができなかった。足の踏み場がなかった。
私は結婚するまでこの家にいた。片付けられない「私」のまま主婦になった。