時間よ とまれ

少し先にみえる信号が赤色か青色か自転車を立ちこぎしながら確認する。
点滅する光をみてゆっくり横断歩道に近づき地面に足をついた。

信号待ちをしている間、目線よりやや上に鮮やかな色が広がっているのに気が付いた。
紫がかったピンク、淡いピンク、白の三色。
敷地を囲うように植えられたツツジは見事で、この家の大きさを物語っていた。
⦅めちゃ広ない?⦆

今ではめっきり通らなくなったこの坂道。週の半分以上ここを往復していたのはもう一年以上前のこと。

再びペダルに足をかける。上り坂もあと少しだ。

 

 

職業欄の「○」をする箇所がパートから主婦になった。
⦅病院の問診票にもあってんけど必要なん?⦆
真っ先にしたかったことはやはり「片付け」だった。

退職後、数か月が過ぎ春を迎えた頃「片付けの終わり」に向かって動き出す。
⦅辞めてすぐちゃうんかーい⦆
もう何十年も片付けを繰り返してきたが今回は違う。仕事をしていた時間をまるまる手にしたのだ。

昨年の夏には、いや秋には いや冬には、全てが片付いているはずだった。
しかし「片付けの終わり」に今もなお到達していない。遅々として進まない理由は分かっていた。

一つ屋根の下で暮らす家族がいる。同時に時間が流れ各々の生活リズムを刻む。
動画を一緒にみたり、おしゃべりしたり、共有スペースを譲りあったりしながら生活をする。私が手に入れた時間は日常生活の合間にある。

「心を落ち着かせ、誰もいない静かな空間で、時間を気にせず」片付けたい。

「私」が片付けられる環境を考える。
叶うなら
ー時間よ とまれー