近くて遠い場所

明日は閉館日だとふと思い出し今日のうちに足を運ぶことにした。
⦅忘れんうちに行っとかな⦆

館内をぐるりと一回りした。めぼしいものが見つからず、
最後にいつものコーナーで立ち止まる。
ここなら何かあるだろうと探すも、結局棚に手を伸ばすことはなかった。
⦅なんもなかったん?⦆

手ぶらのまま受付カウンターへ行く。
声量を抑えてカウンターにいる女性に声をかける。
と同時に彼女は「こんにちは」と明るく挨拶をする。

さほど大きな声ではなかったはずだが、
静かな空間に響く彼女の声に少し驚いた。
⦅いやほんまに驚いた⦆
こんにちはと挨拶を返せぬまま、かき消されたセリフをもう一度言う。
抑えた声量は元に戻せず、彼女の「こんにちは」よりずっと小さな声で。
「予約の本をお願いします」
友達が読んでいたエッセイを真似て借りた。

本を読む習慣がない。
⦅あかんで⦆
図書館にはたくさんの本が詰まっているのに
いつも上手く探せずにいた。

しかし片付けに関する本は今まで何冊も読んできた。
⦅ほんまに⦆
今日もそれらの本が並ぶ「いつものコーナー」で足を止めたが
なんとなく借りるのを辞めておいた。

本を読めばその都度納得する。いくつか実践もした。だが続かない。
思考や行動を停止させるものは何なのか。

複雑に糸を絡ませているのは私だ。
遠い過去に置き去りにしたままの思い。
その糸をほどくと今ここに居る私に真っすぐたどり着く。
答えはきっとある。
糸をほどくために、心の声を聞いてほしい、そう誰かに聞いてほしい。

『ほな、聞こか?』
ん?誰?

『話、聞くで』
かの有名なインドの、図々しいアレじゃないよね?