終わりから始まる

さほど奥行もない引き出しには夏物も冬物も混在している。
奥にはきれいに畳まれたTシャツ、手前には丸めてポイと投げ込まれたトレーナー。

汗ばむ陽気な日、静かに潜んでいたTシャツが急に出番を迎えた。
⦅めっちゃ暑い日あったよな⦆
重なり合った手前のトレーナーを邪魔に思いながら引っ張り出す。
引き出しの中はかき乱され余計にひどい状態になった。

ここ一ヶ月寒暖の差が激しい日を繰り返す。
寒さが舞い戻った日、こたつの布団をすでに片付けてしまったことを悔やんだ。
かといって、またこたつ布団をわざわざ出す気にはならなかった。
就寝時に使っている毛布を体にまとい寒さをしのぐ。
⦅毛布、最高やねん⦆

こたつ布団が下界に降りている間、定位置だったはずの天袋をよそ者が陣取っていた。それでも戻る場所はそこしかなく、よそ者の隣に無理やりこたつ布団を押し込んだ。
本来ならサッと出せたはずが、ぎゅうぎゅうの状態で引っ張り出すとなると、よそ者まで天袋から落ちる勢いだった。

年末まで出しっぱなしだった扇風機も然り。ダイニングに鎮座しているガスストーブも近々同じミッションをしなければならない。
⦅扇風機とガスストーブはさすがに天袋じゃないで⦆

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『ゆめ子さんち、パッと見、床には物がないんやけどな。全部物は収納されてるんやけど、10割のうち9割5分がぎゅうぎゅう、ぐちゃぐちゃ、ごちゃごちゃ、ぱんぱんやねんな』

「そう。片付けてもすぐ乱れてしまう」

『仲間同士おんなじ場所に収納されてるけどなー。おんなじ町内におるけど番地がないって状態やな。番地は決めてんけど、出入りする度乱れてしまうねんな』

「収納方法が最適ではないなぁーて」

『収納場所もいろいろ試行錯誤しながら今まで片付けてるやん。その結果致し方なく、おんなじ仲間の町が複数になったり、行き場のないもんが押し入れに追いやられてるんやもんな』

「収納場所が最適ではないなぁーて」

今、ここが片付く。ここが乱れる。
次、あそこが片付く。あそこが乱れる。
次の次、向こうが片付く。向こうが乱れる。
ずっと正解が見出せなくて仮の状態が続いてるような、片付けをしている。

『片付けの終わりが見えへん言うてたけど、終わりってどこなん?』

「家中全ての整理整頓。家具の配置換え。それに加えて大掃除が完了すれば終わり」

『終わりを目指す理由はなんなん?』

「終わりから始まるから」

まとわりついている「片付けられない悩み」が取れたなら、一歩足を踏み出して全身で心地よい風を浴びよう。