兆し

”あともう一息”、随分前にそう言ったきり、もう一息が完了しないまま時間が経過した。

本棚、引き出し収納、押入と、いろいろな場所を経て、最終的に洋室の一角に、書類は置かれていた。一時期、書類の片付けに精を出し、少しずつ減らしたものの、そのうち手が止まってしまった。長く放置したのち、再び目に付かない押入へ押し込んでいた。

しばらくぶりに、書類を出した。それから一ヶ月ほど、コツコツと整理をして、ようやく終わりに近づいた。”あともう一息”は、今言うべき言葉だった。

 

大量の書類は、最後押入れに入れた時点では、かなり少なくなっていて、本当にあともう一息だと思われた。大事な書類も含まれていたため、残すものも多くあったからだ。

 

もう契約を解除している、携帯電話会社の書類なども出てきた。本体の分割払いだけ残っていたので、その部分の書類だけ残した。
更新されたクレジットカードは、カードだけ財布に入れて、その中身は封筒ごと保管していた。カードが貼り付いていた台紙以外は、処分した。
クレジットカードの明細書は、一度目を通さないと気が済まない。いや正確には二度目になる。すでに明細書と突き合わせたレシートがビラビラくっついている。家電の購入履歴をメモして、ビリビリと破いた。

以前ならこれらの書類は、不必要な書類もひっくるめて、そのまま保管していた。
しかし、家族の誰が見ても分かりやすいようにと、今回は極力余分なものは排除した。

クレジットカードの明細書を眺めていると、過去の景色が見えてくる。
通信教材費や受験料など、高額な金額だったと改めて驚く。懐かしいと感じる反面、その分付与されたポイントの多くを無駄にし、家計管理の一部でもあると思うと、少し苦しかった。
別の明細書には、先週、隣の駅の友達と出向いた、ビルの名があった。遠方から来訪した友達は当然ながら、私達でさえ、ここへはあまり来ないのだと話をしたとおり、明細書の日付は六年前だった。

保管しておく書類は、ほとんどを端に穴のあるA4のクリアポケットに収めた。
封筒から出した、クレジットカードの台紙はA4サイズよりほんの少しだけ大きく、クレジットカードを保有している数と同じ枚数の台紙を、丁寧にカッターで端を切り落とす。

クリアポケットの一つに、大量の雑用紙が詰め込まれていた。
残しているということは、それなりに理由があった。
パスワードやID、子供達に頂いたお年玉の記録、新幹線の予約を取るための会員番号、そして一番多かったのが、やることリストが書いた紙だった。

昔から変わらないのだなと笑った。しかも、片付けるたびに雑用紙は増えていて、それらは大事だからいつか整理しようと、減ることがなかった。
やることリストは、同じことばかり書かれていた。

大事なことだけ、別のところへ記録するが、ほとんどなかった。すでにパスワードは変更していたし、お年玉の記録もすべてがあるわけではなかったし、いいやと思えた。新幹線の予約も自動ログインにしていたので、会員番号は必要なかった。

 

私のいう書類は、レシートも含めた紙類全般を指す。時間はかかったが、これらの紙類一つ一つ、私なりにじっくりと必要か否かを判別した。今後、手元に舞い込んでくる紙類があっても、もう悩まされることはない気がした。