ワークライフバランス

机の下で、左手の親指と人差し指の間を、右手で揉んでいた。次はその逆で、右手の親指と人差し指の間を左手で揉む。何かしらのツボがありそうな箇所だ。

教室には時計がなかった。机の上のパソコンも閉じている。携帯電話も鞄の中だ。
前で話す男性の手が上がるたび、腕時計を確認するが、よく見えない。

何度も睡魔が襲ってきた。押したツボは、眠気を解消するものではないようだ。
授業の一コマが、とてつもなく長かった。

何が言いたいのか、よく分からなかった。就職支援という名のもと、外部からやってきた彼の講話を、聞き漏らさぬよう努力したが、なんともつまらない時間だった。

 

 

月に一度、ここに来る。
もう何度も来ているのに、受付で番号札を取る必要がないと知ったのは、最近のことだ。担当の職員が私に気付く。席に着いてしばらくすると、パーテイションを挟んだ隣の窓口にも誰かが座った。

持参した必要書類のチェックや、求人検索やら、今日は随分と時間がかかる。後から来た隣の席の彼女は、もう居ない。

携帯電話に目をやると、一通のライン通知があった。

「そっち、話長そうでしたね」

担当職員が席を立っている合間に返信をする。

「まだやってる」

互いに気付いていた。さっきまで隣に居た彼女は、明日教室で会うクラスメイトだった。

 

ハローワークを終え、次は訓練校の面談を控えていた。しかし、その間に告知のなかった講話も聞かされ、”就職”という言葉がより耳に入る。

クラスメイトの多くは、正社員を目指して就活をするのかもしれない。
しかし、私は違った。

一日のうちの半分近く、就業時間、通勤時間、準備時間も含めれば、そのぐらいかかるであろう時間を、週に五日も捧げるつもりはない。老後や終活を考えるのにも、決して早くない年齢である。他所に時間を割いている時間はない、などと考えていた。

条件にパートを選択することを忘れない。求人情報を検索しながら、違うことを考えていた。どこかを探して仕事に就くことではなく、雇う側に身を置くことを妄想する。