「L」の英文字の発音が、「え・る」ではなかった。
彼女はきっと英語が話せるのだろうと想像した。
机にはいくかの書類が並べられ、その一つに目を通した彼女は、
「長いですね」と言った。
「ええ、半年あります」と答えた私は、もうここに来るのは四回目だった。
毎回、窓口の担当者は違っていた。
白髪の彼女は、私より年上だった。
窓口で向かい合った私達の間には、前回と違い、透明のアクリル板がなくなっていた。
彼女の洒落た眼鏡と、その奥の目に引いたアイラインまで、くっきり見える。
書類を取ってきます、コピーを取らせてもらいますね、と颯爽と席を立つ彼女は、タイトなスカートが良く似合っていた。
彼女の指示どおりに記入した私のメールアドレスを、一文字ずつ読み上げながら、彼女はパソコンに入力する。
再び、彼女は私に断りを入れて、席を立った。
「トイレに行って来ていいですか?」
毎月一度は、ここを訪ねることになっている。次回以降は、決まった担当者が付くという。また彼女と向かいあうだろうか。
厚い冊子を鞄に入れて、ハローワークをあとにした。
片付けを終わらせるまでは、”何か”を始めるつもりはなかった、はずだった。
”片付け”は私にとって、大きな意味があるからだ。
ほんの数か月前まで、職業訓練校に通うことになるとは、思ってもいなかった。
半年間学んだ後、私は何を思い、どういう道を歩いているのだろう。
まだ始まってもいないのに、早く覗いてみたくなった。