夏の終わり

太陽が眩しいほど、いい天気だった。「好きな色を選んでね」と先生が言った。手にした色が、とても好きだったかというと、記憶になかったが、きっとその時好きな色だったのだろう。何色が好きだったか、何色が好きなのか、昔も今も、すぐにはっきり答えられない。
クラスには四十人もの生徒がいた。ハイカラな色が揃った折り紙なんて、目にしたことのない時代だ。十二色の中から選ぶ折り紙は、必ず誰かと色が被ってしまう。
校庭に出て実験が始まると、早々に歓声が上がった。周りをみると、虫眼鏡を通して集められた太陽の光が、折り紙を焦がし煙を出していた。私が選んだ折り紙からは、一向に煙が出てこなかった。はしゃぐ声しか聞こえないなか、黙々と実験を続けた。私と同じ、黄色の折り紙を選んだ子は、クラスにいなかったのだろうか。大勢のクラスメイトが一人一人手に取った折り紙の色は覚えていない。

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娘とラジオ体操が懐かしいと話していた翌日、普段は気にしない町内の掲示板に目が留まった。月曜日から金曜日までの五日間、7月と8月の終わりにラジオ体操が実施されるという案内が張り出されていた。「河川敷でやっているみたいだよ」と娘が言っていたのはこれだったのか。近所の人が、しかも高齢の方が集まって、毎日やっているような勝手なイメージをしていたが、違うようだ。張り紙にはきちんと主催も記載されている。
8月のラジオ体操にまだ間に合う日だった。行ってみようかと、掲示板の張り紙に書かれた時間を確認する。ちょうど夫を起こして、身支度の準備をする時間と被っていた。私がラジオ体操に参加しようとも、夫に反対されるわけもない。ただ、ラジオ体操に出向く前に、あちらこちらから夫の身支度の品を集めて準備しておく必要があった。
おにぎりの準備も、最近では水筒の準備さえなかった。その代わり、昔のルーティンのように、その日着ていくカッターシャツのアイロンの時間に充てていた。
和室の一角に、会社へ行くための準備コーナーを作りたいと思いつつ、まだ実現されていなかった。そこにはアイロンを済ませた一週間分のカッターシャツを掛けておく。そこから、直接夫が身に着けるものを手に取ってくれれば、何も事前に準備しておく必要がない。古いノートのやることリストにも、「和室 会社コーナー」と書いてあるのを先日見つけた。いつになったら、実現するのか自分に嫌気がさす。

思い描く和室の一角が完成していないことが原因で、なんだか面倒になってしまった。黄色の折り紙に根気よく虫眼鏡をかざしていた私、毎日のようにラジオ体操に参加していた私、昔をふと思い出し懐かしむ。その頃「面倒」なんて言葉は使っていなかった。頻繁に「面倒」だと感じる大人になってしまった私は、来年の夏、河川敷を覗いてみることにした。